2007/07/16(月)小説「烈火の契り」感想
子どもの頃一週間だけ父に連れられて滞在した神喜島に、28歳の大里斎は仕事で訪れた。会社はこの島全体を開発してまるごとリゾート地にするつもりだが、斎はそれを何とか止めたかった。案内人として現れた高良はかつて遊んだ同い年の少年だった。島と斎の父との因縁、以前は気がつかなかった高良の目の下のほくろ、少しずつ明かされる謎とともに斎は高良の熱に馴らされて行く……。
性を宗教的儀式として扱う小説は多いが、この作品は珍しく荒唐無稽に見えない。南国の自然とそこで育まれた高良の野生的なたくましさがきっちり描かれているために、その世界を土台に載るものとして、生涯独身の伝い手とその「つがい」という設定も違和感なく受け止められるのだ。
島にまつわる悲劇が第二次世界大戦末期の逸話と台風被害であるのも、ストーリーに現実味を濃くさせている。これが例えば大和朝廷や幕府のような中央政権のいずれとも接点のない、歴史というより神話であったならば、効果は半減していただろう。読み手が主人公とともに惑わされるのはただ高良にのみなのだ。
嗜虐すれすれの高良の戯れとそれに相反する感情をかきたてられながら捕らえられて行く斎の描写も見事だ。表紙とミステリー部分で読者を選ぶ作品かと誤解しましたが、実際は怖くなかった。