2007/07/16(月)ドラマCD「ボーダー・ライン」感想

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#asin: is not allow
「ボーダー・ライン」
初対面の人間に「どこかでお会いしましたか」と尋ねられて、普通以下のようには返さない。
「あなたが選んで下さい。『はじめまして』と、『またお会いしましたね』と、どっちが良いですか」とは。
 オリジナリティを自己演出の第一に置いている由利潤一郎だからこその台詞だけれど、もしももう一度、同じ相手にこの台詞を言うことになると知っていたなら、彼はこの言葉を選んだだろうか。自分の存在を忘れてしまったかつての恋人に、初対面として問いかけられて、それでも微笑しながらこの台詞を言えるだろうか。
 この台詞、最初のときは奇天烈にしか聞こえないのに、二度めにはこれ以上状況に沿った言葉は選べない。由利の台詞に宿る魂が、二人の運命を自らに相応しいものに押し流したようにも思える。尤も、前作「グレイ・ゾーン」では真行寺佳也に当たる、由利の恋人であった刑事は殉職している。「ボーダー・ライン」の執筆にあたり「グレイー・ゾーン」における設定すべてが制約となって苦しんだとあとがきで書いている作者は、ストーリー構想のどの段階で、由利にこの台詞を言わせることに決めたのだろう。CDで佳也を含めた刑事たちがタンクローリー事故に巻き込まれたシーンを初めて聞いた時には、てっきり主人公は、ここで死んだと思った。この事故で負った外傷により、佳也の中で由利に関する全てが葬り去られてしまったのは確かなので、ミスリーディングを誘うこの場面の演出も間違いではないのだが。
幕切れのあと、「佳也と由利の未来がここから(また)始まる」かは定かではないけれど、たとえ記憶が戻らないとしても、由利と親密にならない未来につながったとしても、佳也が生きていた方がずっと良い。ペルソナ3発売から一年、フェス発売からも三か月経つので、反転せずに書いてもネタバレにはならないでしょうから書きますが、主人公はやはり死なない方が良かったですよアトラスさん。

#asin: is not allow

「ペルソナ3」順平役の声優さん主演のドラマCDで非常に評価の高い作品です。1995年リリースの三枚続きのタイトルですが全部きかないとストーリーがわからない。少し迷いましたが買って正解でした。(余談ですが、単行本の内容をドラマ化するなら最低二枚組が必要なのかもしれません。一枚ものだと、進行上重要なシーンがばっさり落とされていたり、好みのシーンが描写不足になって物足りなく思うケースが多いように思います。)この種のCDで売りの濡れ場はもちろん三枚それぞれに入っていて(ないと売り上げが落ちる巻が出るのかもしれません)、内容が全部違います。

#asin: is not allow

端的に言うとこれは回復の物語です。接触恐怖のある主人公が、危機的状況の中で、同性からの性愛を受け入れて身体感覚を取り戻していく物語。よく考えてみれば、主人公は肩を叩かれるくらいの接触は拒否反応が出ないし、同僚と飲みにも行く、快楽に弱かった生みの母親の欠点は自分で調べて知ったことで、本人自身は伯父の家で、育ての両親と従兄達(兄達)に可愛がられて育っている。一方ボーイズラブの主力読者である女性には、あたりまえの第二次性徴を周囲から嫌悪されたりなどの経験から、性的存在であるセルフイメージが損なわれている場合も珍しくないので、よく考えればそう簡単な話ではないとも思いますが。CDを聴く時はあまりそこまで考えず、由利の柔らかい声をガイドに、自分の存在をまるごと受け止めてもらえる安心感を堪能すれば良い。
効果音や音楽も秀逸です。場面ごとに決まった曲が流れているようですが、台詞を邪魔せず、目立ちすぎずシーンを盛り上げる使い方がされています。囁くような台詞が多いので、BGMの音量が大きすぎないのは助かります。最後の幕切れのところでハトが数羽飛び立つような効果は、明るい未来を連想させて爽快感がありました。